コラム
-
2020.07.06
健康
“漢方薬”に関する素朴な疑問にお答えします
皆さんは「漢方薬」に対してどのようなイメージをお持ちですか?
風邪をひいた時、胃腸炎になった時、足がつった時、漢方薬が効いた経験がある方は良いイメージをお持ちでしょう。飲んでみたけれどあまり効果がなかった経験がある方は、悪いイメージをお持ちかもしれません。今回は、いずれの方にも興味を持っていただけるように、漢方薬に関する素朴な疑問にお答えします。
漢方薬に関するQ&A
【Q1】漢方薬はいつ頃から日本で使われているのですか?
- 【A1】
-
6世紀頃に中国医学が日本に伝わりました。その頃に、現在「漢方薬」と呼ばれている多くの生薬や医学書が持ち込まれたのです。ですから日本における漢方薬の歴史は千数百年以上におよびます。その後も中国医学の書物が日本に伝わり、多くの医家によってそれぞれの漢方薬が適する「証」(虚・実、寒・熱など)の研究がなされ、日本で独自の発展を遂げました。明治以降、消えかけた漢方医学を守り研究し続けた医家たちの努力により、1976年に初めて現在の一部漢方薬の処方が健康保険適用となり、多くの患者さんに処方されるようになりました。今では、医師の約8割が漢方薬を使うほどになっています。
【Q2】漢方薬の歴史を教えてください。
- 【A2】
-
約1800年前に編纂された「傷寒論」という書物が、漢方薬の最古の原典です。「傷寒論」は、湖南省・長沙の太守(地方行政官)で伝染性の熱性疾患でたくさんの親類縁者を失った張仲景という医師が、発熱・咳・下痢・おう吐などのあらゆる症状、状況に対応する生薬の処方をまとめた治療マニュアルです。この中に、おなじみの「葛根湯(カッコントウ)」、「麻黄湯(マオウトウ)」などの処方が記載されています。生薬の煎じ薬である「湯液(トウエキ)」は、春秋戦国時代(BC770年-BC221年)には存在していました。現在使われている漢方薬は、数え切れないほど多くの人々に処方され、淘汰されてきたものなのです。西洋薬でよく知られているアスピリンが医療で実用化されてから120年、ペニシリンはまだ80年も経っていないことを考えると、漢方薬の歴史の長さが実感できます。
[出所] 日本漢方生薬製剤協会 HP
https://www.nikkankyo.org/kampo/kampo1.htm
【Q3】漢方薬と民間薬(ドクダミ、ビワ葉など)の違いは何ですか?
- 【A3】
-
一つだけの生薬を使う民間薬と異なり、漢方薬は複数の生薬のブレンドになっています。漢方薬は「傷寒論」などの原典の記載に則って処方され、生薬の基原、製法、用法容量、用いる場合の注意点や病態が細かく定められています。
【Q4】漢方薬と西洋薬の違いは何ですか?
- 【A4】
-
西洋薬が一つのターゲットに対するピンポイント攻撃が得意であるのに対して、漢方薬は1剤に複数の生薬が入っており、それぞれの人の「証」を考慮して症状に応じて処方され、効果を発揮します。
例えば、風邪で発熱、鼻水、咳、痰などの症状がある場合、西洋薬では解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、去痰剤の四つの薬でそれぞれの症状をピンポイント攻撃します。一方、漢方薬では小青竜湯(ショウセイリュウトウ)または苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)などの1剤での治療ができます。実証(体格がしっかりして胃腸が丈夫)か虚証(体格が華奢で胃腸が弱い)かによって、病気に対する体の反応が異なるので、処方も異なるのです。
(*) 生薬とは、天然の植物・鉱物・動物などの全部または一部を簡単な加工のみで薬として用いるものをいいます。 一つ一つの生薬には、さまざまな作用をもつ多くの成分が含まれています。
[出所] 日本漢方生薬製剤協会 HP
https://www.nikkankyo.org/kampo/kampo1.htm
【Q5】漢方薬では、どのように「テーラーメイド」な処方を決めるのですか?
- 【A5】
-
漢方薬の処方をする場合に重要なのが、その人の「証」と「気・血・水」の状態です。これは漢方医学の診察に基づいて判断します。
西洋医学のように臓器にフォーカスを絞るのではなく、心理的な状態も含めて体全体を診察します。虚証か、実証か、冷えがあるのか熱があるのか、気持ちが低下しているのか高ぶっているのか、体の水の流れが悪いか否か、血流が悪いか否か、などを診察で判断して、その人の今の症状に最適な漢方薬を選んで処方します。また、漢方では風邪ひとつ取っても、ひき始め、症状が変化した時、長引いた時など、経過・症状に応じて処方を変更していきます。
[出所] 日本漢方生薬製剤協会 HP
https://www.nikkankyo.org/kampo/kampo4.htm
https://www.nikkankyo.org/kampo/colume/019/index.htm
【Q6】薬局で市販されている漢方薬を飲んだのに効かなかったのですが、なぜでしょう?
- 【A6】
「証」が合っていなかった可能性、薬の量が十分でなかった可能性があります。漢方薬はサプリメント(健康食品)とは異なりますので、しっかり治したい場合は専門医の処方をお受けください。
【Q7】インフルエンザへの漢方薬の効果はありますか?
- 【A7】
-
「麻黄湯(マオウトウ)」は季節性インフルエンザに対して、抗インフルエンザ薬に劣らぬ効果があることが報告されています。これ以外にも、証に応じて複数の処方が有効であると考えられます。
(関連記事)M-Review「インフルエンザ治療における麻黄湯の役割」
https://med.m-review.co.jp/article_detail?article_id=J0026_1203_0086-0091
【Q8】新型コロナウイルス感染症への漢方薬の治療効果はありますか?
- 【A8】
-
今回の新型コロナウイルス感染症に対して、中国では新たな処方として「清肺排毒湯(セイハイハイドクトウ)」を考案して政府主導で患者に投与し、良好な治療成績を挙げたと発表しています。内容は「傷寒論」の生薬をベースに考えられたものですが、日本の漢方薬に比べて生薬の量が多く、そのまま用いることには厳重な注意が必要とされています。漢方の専門家からは日本の漢方薬での処方も考案が進められております。
(関連記事)日本感染症学会「(特別寄稿)COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)および(寄稿)中国におけるCOVID-19に対する清肺排毒湯の報告」
http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=147
【Q9】新型コロナウイルス感染症予防のための漢方薬はありますか?
- 【A9】
-
新型コロナウイルス感染症に関しては、日本東洋医学会が、感染したあるいは、その疑いのある患者に対し、医師が処方した漢方薬や、解熱鎮痛薬などの対症療法がその後の重症化の有無とどう関連があるか、現在研究調査を進めております。解析結果報告が待たれます。
(関連記事)日本医事新報社「【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14426
いかがでしたか。「未病」という言葉は中国の医学書古典が語源で、「未だ病にならざる」つまり、病気の一歩手前、病気になる前の状態のことを指し、東洋医学ではこの状態の治療に主眼をおいています。深刻な症状が出るまでに対処するということでは、定期的な健康診断をすすめる現在の西洋医学の「予防医学」と通じるものです。
「日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック」では、新型コロナウイルス感染症対策の前提として、健康維持のために人間ドックや健康診断とともに、漢方薬のご活用もおすすめします。ご質問や不明点などあればぜひ「日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック」にご相談ください。
監修者プロフィール
半下石 美佐子(はんがいし みさこ)医師
日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック 総合内科・循環器内科専門医師
日本東洋医学会 漢方専門医
漢方薬は、まだ診断の手段がない太古から、病気の症状を改善するために使われてきました。長い歴史の中で淘汰・研究され、個々人の心身の状態に合わせて処方される漢方薬は、人間の英知の結晶ともいえます。漢方薬には、まれですが副作用もあります。服用にあたっては、漢方に詳しい医師、薬剤師にご相談ください。
皆さんは「漢方薬」に対してどのようなイメージをお持ちですか?
風邪をひいた時、胃腸炎になった時、足がつった時、漢方薬が効いた経験がある方は良いイメージをお持ちでしょう。飲んでみたけれどあまり効果がなかった経験がある方は、悪いイメージをお持ちかもしれません。今回は、いずれの方にも興味を持っていただけるように、漢方薬に関する素朴な疑問にお答えします。
漢方薬に関するQ&A
【Q1】漢方薬はいつ頃から日本で使われているのですか?
- 【A1】
-
6世紀頃に中国医学が日本に伝わりました。その頃に、現在「漢方薬」と呼ばれている多くの生薬や医学書が持ち込まれたのです。ですから日本における漢方薬の歴史は千数百年以上におよびます。その後も中国医学の書物が日本に伝わり、多くの医家によってそれぞれの漢方薬が適する「証」(虚・実、寒・熱など)の研究がなされ、日本で独自の発展を遂げました。明治以降、消えかけた漢方医学を守り研究し続けた医家たちの努力により、1976年に初めて現在の一部漢方薬の処方が健康保険適用となり、多くの患者さんに処方されるようになりました。今では、医師の約8割が漢方薬を使うほどになっています。
【Q2】漢方薬の歴史を教えてください。
- 【A2】
-
約1800年前に編纂された「傷寒論」という書物が、漢方薬の最古の原典です。「傷寒論」は、湖南省・長沙の太守(地方行政官)で伝染性の熱性疾患でたくさんの親類縁者を失った張仲景という医師が、発熱・咳・下痢・おう吐などのあらゆる症状、状況に対応する生薬の処方をまとめた治療マニュアルです。この中に、おなじみの「葛根湯(カッコントウ)」、「麻黄湯(マオウトウ)」などの処方が記載されています。生薬の煎じ薬である「湯液(トウエキ)」は、春秋戦国時代(BC770年-BC221年)には存在していました。現在使われている漢方薬は、数え切れないほど多くの人々に処方され、淘汰されてきたものなのです。西洋薬でよく知られているアスピリンが医療で実用化されてから120年、ペニシリンはまだ80年も経っていないことを考えると、漢方薬の歴史の長さが実感できます。
[出所] 日本漢方生薬製剤協会 HP
https://www.nikkankyo.org/kampo/kampo1.htm
【Q3】漢方薬と民間薬(ドクダミ、ビワ葉など)の違いは何ですか?
- 【A3】
-
一つだけの生薬を使う民間薬と異なり、漢方薬は複数の生薬のブレンドになっています。漢方薬は「傷寒論」などの原典の記載に則って処方され、生薬の基原、製法、用法容量、用いる場合の注意点や病態が細かく定められています。
【Q4】漢方薬と西洋薬の違いは何ですか?
- 【A4】
-
西洋薬が一つのターゲットに対するピンポイント攻撃が得意であるのに対して、漢方薬は1剤に複数の生薬が入っており、それぞれの人の「証」を考慮して症状に応じて処方され、効果を発揮します。
例えば、風邪で発熱、鼻水、咳、痰などの症状がある場合、西洋薬では解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、去痰剤の四つの薬でそれぞれの症状をピンポイント攻撃します。一方、漢方薬では小青竜湯(ショウセイリュウトウ)または苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)などの1剤での治療ができます。実証(体格がしっかりして胃腸が丈夫)か虚証(体格が華奢で胃腸が弱い)かによって、病気に対する体の反応が異なるので、処方も異なるのです。(*) 生薬とは、天然の植物・鉱物・動物などの全部または一部を簡単な加工のみで薬として用いるものをいいます。 一つ一つの生薬には、さまざまな作用をもつ多くの成分が含まれています。
[出所] 日本漢方生薬製剤協会 HP
https://www.nikkankyo.org/kampo/kampo1.htm
【Q5】漢方薬では、どのように「テーラーメイド」な処方を決めるのですか?
- 【A5】
-
漢方薬の処方をする場合に重要なのが、その人の「証」と「気・血・水」の状態です。これは漢方医学の診察に基づいて判断します。
西洋医学のように臓器にフォーカスを絞るのではなく、心理的な状態も含めて体全体を診察します。虚証か、実証か、冷えがあるのか熱があるのか、気持ちが低下しているのか高ぶっているのか、体の水の流れが悪いか否か、血流が悪いか否か、などを診察で判断して、その人の今の症状に最適な漢方薬を選んで処方します。また、漢方では風邪ひとつ取っても、ひき始め、症状が変化した時、長引いた時など、経過・症状に応じて処方を変更していきます。[出所] 日本漢方生薬製剤協会 HP
https://www.nikkankyo.org/kampo/kampo4.htm
https://www.nikkankyo.org/kampo/colume/019/index.htm
【Q6】薬局で市販されている漢方薬を飲んだのに効かなかったのですが、なぜでしょう?
- 【A6】
「証」が合っていなかった可能性、薬の量が十分でなかった可能性があります。漢方薬はサプリメント(健康食品)とは異なりますので、しっかり治したい場合は専門医の処方をお受けください。
【Q7】インフルエンザへの漢方薬の効果はありますか?
- 【A7】
-
「麻黄湯(マオウトウ)」は季節性インフルエンザに対して、抗インフルエンザ薬に劣らぬ効果があることが報告されています。これ以外にも、証に応じて複数の処方が有効であると考えられます。
(関連記事)M-Review「インフルエンザ治療における麻黄湯の役割」
https://med.m-review.co.jp/article_detail?article_id=J0026_1203_0086-0091
【Q8】新型コロナウイルス感染症への漢方薬の治療効果はありますか?
- 【A8】
-
今回の新型コロナウイルス感染症に対して、中国では新たな処方として「清肺排毒湯(セイハイハイドクトウ)」を考案して政府主導で患者に投与し、良好な治療成績を挙げたと発表しています。内容は「傷寒論」の生薬をベースに考えられたものですが、日本の漢方薬に比べて生薬の量が多く、そのまま用いることには厳重な注意が必要とされています。漢方の専門家からは日本の漢方薬での処方も考案が進められております。
(関連記事)日本感染症学会「(特別寄稿)COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)および(寄稿)中国におけるCOVID-19に対する清肺排毒湯の報告」
http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=147
【Q9】新型コロナウイルス感染症予防のための漢方薬はありますか?
- 【A9】
-
新型コロナウイルス感染症に関しては、日本東洋医学会が、感染したあるいは、その疑いのある患者に対し、医師が処方した漢方薬や、解熱鎮痛薬などの対症療法がその後の重症化の有無とどう関連があるか、現在研究調査を進めております。解析結果報告が待たれます。
(関連記事)日本医事新報社「【緊急寄稿】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14426
いかがでしたか。「未病」という言葉は中国の医学書古典が語源で、「未だ病にならざる」つまり、病気の一歩手前、病気になる前の状態のことを指し、東洋医学ではこの状態の治療に主眼をおいています。深刻な症状が出るまでに対処するということでは、定期的な健康診断をすすめる現在の西洋医学の「予防医学」と通じるものです。 「日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック」では、新型コロナウイルス感染症対策の前提として、健康維持のために人間ドックや健康診断とともに、漢方薬のご活用もおすすめします。ご質問や不明点などあればぜひ「日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック」にご相談ください。
監修者プロフィール
半下石 美佐子(はんがいし みさこ)医師
日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック 総合内科・循環器内科専門医師
日本東洋医学会 漢方専門医
漢方薬は、まだ診断の手段がない太古から、病気の症状を改善するために使われてきました。長い歴史の中で淘汰・研究され、個々人の心身の状態に合わせて処方される漢方薬は、人間の英知の結晶ともいえます。漢方薬には、まれですが副作用もあります。服用にあたっては、漢方に詳しい医師、薬剤師にご相談ください。
当ページに掲載されている情報は、開示日及び発表日当時の情報です。
現在行われているサービスや最新情報とは異なる場合がございますので、予めご了承ください。